海ほうづき流れよる木にひしと生え
海ほうづき鳴らせば遠し乙女の日
吹き習ふ麦笛の音はおもしろや
潮の香のぐんぐんかはく貝拾ひ
杜若雨に殖えさく高欄に
杜若映れる矼をまたぎけり
ばら薫るマーブルの碑に哀詩あり
蝉涼し汝の殻をぬぎしより
羅の乙女は笑まし腋を剃る
壇浦見渡す日覆まかせけり
日覆かげまぶしき潮の流れおり
おびき出す砂糖の蟻の黒だかり
英彦より採り来し小百合莟むなり
冷水をしたたか浴びせ躑躅活け
実梅もぐ最も高き枝にのり
千万の宝にたぐひ初トマト
処女の頬のひほふが如し熟れトマト
母美しトマトつくりに面痩せず
朝に灌ぎ夕べに肥し花トマト
降り足りし雨に育ちぬ花トマト
新鮮なトマト喰ふなり慾もあり
青芒ここに歩みを返しつつ
たてとほす男嫌ひの単帯
張りとほす女の意地や藍ゆかた
一束の緋薔薇貧者の誠より
一椀の餉にあたたまり梅雨の寺