船長の案内くまなし大南風
翠巒を降り消す夕立襲ひ来し
旱魃の舗道はふやけ靴のあと
夜毎たく山火もむなしひでり星
汲み濁る家主の井底水飢饉
水飢饉わが井は清く湧き澄めど
夏の海島かと現れて艦遠く
煙あげて塩屋は低し鯉幟
大阪の甍の海や鯉幟
目の下の煙都は冥し鯉幟
男の子うまぬわれなり粽結ふ
櫛巻の歌麿顔や袷人
ミシン踏む足のかろさよ衣更
蒼朮の煙賑はし梅雨の宿
焚きやめて蒼朮薫る家の中
おくれゐし窓辺の田植今さかん
早苗水走り流るる籬に沿ひ
おくれゐし門辺の早苗植ゑすめり
踏みならす帰省の靴はハイヒイル
寮の娘や帰省近づくペン便り
帰省子の琴のしらべをきく夜かな
帰省子やわがぬぎ衣たたみ居る
いとし子や帰省の肩に絵具函
遊園の暗き灯かげに涼みけり
涼み舟門司の灯ゆるくあとしざり