和歌と俳句

杉田久女

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住みかはる扉の蔦若葉見て過ぎし

厨着ぬいでひとり汲む茶や若楓

傘にすけて擦りゆく雨の若葉かな

月見草に月尚ささず松の下

茄子苗の日除し置いてまた縫へり

茄子もぐや日を照りかへす櫛のみね

月に出て水やる音す茄子畠

牛蒡葉に雨大粒や竿入るる

簀戸たてて棕櫚の花降る一日かな

子犬らに園めちやくちや箒草

つれづれの小簾捲きあげぬ濃紫陽花

箒目に莟をこぼす柚の樹かな

咲くや旭まだ頬に暑からず

水暗し葉をぬきん出て大蓮華

日を遮る広葉吹きおつ日ごと日ごと

汲みあてて花苔剥げし釣瓶かな

麦湯湧かしくど日もすがら松の根に

水上げぬ紫陽花忌むや看る子に

面痩せし子に新しき単衣かな

庭木のぼり蛇見てさわぐ病児かな

床に起きて絵かく子となり蝉涼し

夏雨に母が炉をたく法事かな

目にしみて炉煙はけず茄子の汁

茄子買ふや框濡らして数へつつ

夏雨に炉辺なつかしき夕餉かな