和歌と俳句

水原秋櫻子

遠山の奥の山見ゆ蕎麦の花

一字やのとべる音ばかり

鳴く虫をあらはに見つつ栗拾ふ

羊歯濡れぬ紅葉をとほす山の雨

吊橋に懸巣の下りて谿くらし

霧裂けて妙義日輪をささげたり

霧凝ると見しは浅間嶺が噴くけぶり

こもり居やのひらきける金の蘂

山茶花の暮れゆきすでに月夜なる

涸川や波を曳きゐる杭ひとつ

大菩薩嶺ひよどり鳴ける朝は見ゆ

鉢ながら欅は性の落葉降る

残る日の柚子湯がわけばすぐ失せぬ

餅搗や田におどろける石叩

立春の雉子を描きて画布立てる

降りいでて雲の中なり梅花村

来て山家に鳴けば春祭

若楓影さす硯洗ひけり

芍薬や伊賀の古壺漏るままに

頬白の巣を見し日より雨くらし

手長鰕うするる見えて失せにけり

翡翠のこゑのはれゆく雨を追ふ

七夕の山家の蕎麦にまねかるる

七夕や雲のたむろす裏高尾

田を植ゑて景色かはりぬわが門辺