蔓踏んで一山の露動きけり
橋に来て谷の深さや月の虫
月見るや山冷到る僧の前
月さすや伐木乱雑に山の窪
馬盥の底穿くばかり山の月
葛掘りし家のほとりや山の月
杣が子の摘みあつめゐる曼珠沙華
穂黍まだ青きに早も山の露
秬引きし谷の広さや月の虫
粟刈りて淋しきものや杭の跡
鉄砲を掛けて鴨居や杣が秋
秋の日や猫渡り居る谷の橋
秋天に聳ゆる峰の近さかな
秋風や猿柿に来る山鴉
秋風をわづかに染めぬ烏瓜
深吉野に一とせすぎぬ秋の暮
をかしさはがらんと鳴し猪威
山国のものものしさよ猪威
峯越衆に火貸すなかばも打つ 砧
石段を下れば暮れん荻の寺
船と船つなげる綱に野分かな
親船の艀そなへし野分かな
筑紫路はあれちのぎくに野分かな
秋雨や蜘蛛とぢて伏す枯れ葎
蘆の中雁色もなく日かげりぬ
あら波や或は低き雁の列
船で着く行李持つ我れに秋日かな