起居する影大なり夜長の灯
大いなる藁屋根さびし信濃柿
とんぼうや海を見し目に松しづか
長崎の雲が見ゆるよ赤とんぼ
山風に蓮の実高し赤とんぼ
蓮の葉のゆるゝにまかすとんぼかな
高々と一葉全き芭蕉かな
高蘆の色あらはすや稲光り
稲妻や舟に干しある濯ぎもの
山の日や落ちてしづけき栗の毬
板の間うつせし音や栗一斗
夜長の灯動くと見えし障子かな
杉間よりこぼれ居る旭や露の草
露冷えに醒めてもわれは一人かな
庵の灯のとゞく限りや露の庭
草山を一つ隔てゝ鳴子かな
稲の上に鳴子の影や月の下
朝まだき一つ鳴りたる鳴子かな
虫籠に岐阜提灯の消えかけし
障子閉めて間借同志や今朝の秋
白きもの着て寝し夜より秋の蚊帳
燭低く菊剪る人や霧の中
小さき葉にかくれて一つぬかごかな
蔵かべに這ひ上りたるぬかごかな
蟻つきし芯をあはれむ芙蓉かな