和歌と俳句

原 石鼎

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けさ秋の一帆生みぬ中の海

松風にふやけて疾し走馬燈

干物の裾に影飛べり草の花

浜荻を高くとびたるばつたかな

浪音の地ひゞきにとぶばつたかな

見るうちに高まさる浪や秋の海

巨涛砕けて残る水泡や初嵐

夕雁わたる磯好くことに懐ろ手

廃れ行く港の檐や雨の

磯ばたに日こぼす雨や雁の声

高蘆にひた渡る鳥の迅さかな

引潮にいよいよ高き蜻蛉かな

とんぼうに垢じみし己と忘れ行く

鰯引き見て居るわれや影法師

鰯網沖にたゞよふ帆二つ

鰯船船かたむけて敷き競へり

野分やんで人ごゑ生きぬここかしこ

野分あとの腹あたためむぬかご汁

味噌汁に根深もすこし浮く秋ぞ

秋風や模様のちがふ皿二つ

秋風に殺すと来る人もがな

己が庵に火かけて見むや秋の風

長橋の手欄に居りしかな

色めきて岬灯るや冬近し