松風にふやけて疾し走馬燈
干物の裾に影飛べり草の花
浜荻を高くとびたるばつたかな
浪音の地ひゞきにとぶばつたかな
見るうちに高まさる浪や秋の海
巨涛砕けて残る水泡や初嵐
夕雁わたる磯好くことに懐ろ手
廃れ行く港の檐や雨の雁
磯ばたに日こぼす雨や雁の声
高蘆にひた渡る鳥の迅さかな
引潮にいよいよ高き蜻蛉かな
とんぼうに垢じみし己と忘れ行く
鰯引き見て居るわれや影法師
鰯網沖にたゞよふ帆二つ
鰯船船かたむけて敷き競へり
野分やんで人ごゑ生きぬここかしこ
野分あとの腹あたためむぬかご汁
味噌汁に根深もすこし浮く秋ぞ
秋風や模様のちがふ皿二つ
秋風に殺すと来る人もがな
己が庵に火かけて見むや秋の風
長橋の手欄に居りし螽かな
色めきて岬灯るや冬近し