和歌と俳句

原 石鼎

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この秋や巷に住みて座敷掃く

高々と薄き黄色や葉鶏頭

芭蕉高し雁列に日のありどころ

唐草の薄き蒲団やを病む

谷杉にさしわたる月や露の橋

草原に月はたゞある夜長かな

窓の灯の軒ばを照らす夜長かな

月させば岩なりし草やちゝろ虫

さして人影もなし谷の橋

月さすや尺の葉垂れて栗大樹

傘一つに寄る三人や秋の雨

秋風に得体も知れぬこの干潟

われもきてよりかかる窓や秋の海

青き藻に蟹居る秋の干潟かな

われ一人にとまる電車や秋の雨

提灯の相会ふ野路や遠砧

上ぬいで薄き襦袢やしころ打つ

柿干すや納屋の日ざしに牛蠢く

秋風にわれと見出でし己れかな

秋風や北国に行く汝が小風呂敷

秋風や屋根一面にもゆる苔

崖草にしがみつく尾羽根かな

杣が戸に霧降りかかる野菊かな

谷水を汲む桶二つ野菊かな

谷水に映りて太き野菊かな