和歌と俳句

長谷川かな女

山の秋高尾の塚を哀れにも

山の秋灯して洗ふ白き米

紅菊の菊人形の十次郎

秋曇り上野に来れば晴れしかな

擬宝珠の実鳴らして降りぬ秋の谿

幹のまはりに雨よく降れる一葉かな

山柿の下に人情ありしかな

大空にそむきて通草裂け初めぬ

朝顔のべたべた咲ける九月かな

蒲団敷く影法師あり秋の夜

白檀の扇をもちぬ星まつり

子規忌とて袴つけたる乙女かな

秋袷つゞきて赤き紐出でぬ

雨に登る音楽堂は無月なり

山水にさす傘や秋の雨

手拭に山の夜露をしのぎけり

一片づゝ雲をかぶれり秋の山

雲這ふて秋野の径のそここゝに

父母のある児に負けず追ふ

ぞろぞろと通草の種を舌に出す

御簾かけて秋は住みよきお寺かな

膝の上に秋めく影のうつりけり

爽かに降る雨ぬけし田甫かな

待宵や水をうごかす白き鯉