和歌と俳句

水原秋櫻子

朝霞宮路の松にいま下りつ

かすみつつさらに翠の松垂るる

松の間に照りいでて咲きにけり

咲かむとすを押しひらく

九体仏金色にひらきたり

春山の青杉を負ひて古りぬ

花の奥は杉生のみちぞ浄らなる

夜の雨の庭前馬酔木しろきのみ

消えのこる春暁の灯も机上なる

春暁のぬれし築地にむかひゐる

苔あをし更に影置く若楓

櫟萌え三日を経たれば丘しろし

つつましく古りたる壺やリラ咲きぬ

花さびぬ襞をつゞれる苔の花

青き霧まぶたにすがし時鳥

若楓搖りつつ鳴くは四十雀

雲垂れて郭公これにひびかへり

郭公浅間の裾が雲を出づ

いちはつの花すぎにける屋根並ぶ

筒鳥を幽かにすなる木のふかさ

姫林檎こぼれてしろき橋をすぐ

慈悲心鳥ひゞきて鳴けば霧きたる

慈悲心鳥霧がおもてを吹きて去る

羊歯くらし小瑠璃のこゑのまろびくる

筒鳥や一人憩へば羊歯の雨

霧はしる熊笹に躑躅朱を點ず

鈴蘭に憩ふをとめ等の肩見ゆる