朝霞宮路の松にいま下りつ
かすみつつさらに翠の松垂るる
松の間に照りいでて桜咲きにけり
春山の青杉を負ひて塔古りぬ
花の奥は杉生のみちぞ浄らなる
夜の雨の庭前馬酔木しろきのみ
消えのこる春暁の灯も机上なる
春暁のぬれし築地にむかひゐる
苔あをし更に影置く若楓
櫟萌え三日を経たれば丘しろし
つつましく古りたる壺やリラ咲きぬ
花さびぬ襞をつゞれる苔の花
青き霧まぶたにすがし時鳥
若楓搖りつつ鳴くは四十雀
雲垂れて郭公これにひびかへり
いちはつの花すぎにける屋根並ぶ
筒鳥を幽かにすなる木のふかさ
姫林檎こぼれてしろき橋をすぐ
慈悲心鳥ひゞきて鳴けば霧きたる
慈悲心鳥霧がおもてを吹きて去る
羊歯くらし小瑠璃のこゑのまろびくる
筒鳥や一人憩へば羊歯の雨
霧はしる熊笹に躑躅朱を點ず
鈴蘭に憩ふをとめ等の肩見ゆる