和歌と俳句

大野林火

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水底に椿こたびは流れ去る

みつまたのみほとけの手に垂れて供華

薄墨に散りてこの世のさくらならず

雲に入る飛花や花守白髪に

種を撰るてのひら天の映るらし

満齢古稀さくらのもとにけふ一日

辛夷白し雨脚もその高さより

花菜の辺水ちかづけて紀の川は

暈を被て日はそそぐなり山櫻

飛花もろとも消なば消えてもよき齢

櫻濃し死のごと曇る沢内村

花の雨遺影引伸ばされ薄れ

匂ひ白雲遊ぶ方一里

水温む泊るこころとなりてをり

初花のまだ朝日子に紛るるほど

咲き御所から鳥も来るといふ

花神赫と日を配りけり山櫻

落花舞ひあがり花神の立つごとし

恋猫の鳴きゆく残雪五尺の裾

雪退きし一尺前に蕗の薹

焼亡の寺へしだるるさくらかな

濃く鶏鳴のぼる天守閣

枝寄せてあんずの花の深情

杏咲く枝天に向け天に向け

ぴかぴかと天が近しよ杏花村