帰還兵の大きあぐらに春立つ夜
樹のもとのはげしき雪解夕日さへ
あをあをと空を残して蝶別れ
蕗の薹やまみづの湧くほとりかな
夕永し花圃のかなたの濃き燈
黙祷の子らのうへ白き蝶わたる
東風つよし三日月の弧のやや歪み
嘶きてはからだひからせ東風の馬
旅にして長きホームの雪解の燈
いちめんの白雲となる春の坂
森の上春の太白かがやける
月痩する十二時すぎの夜の蛙
巷への道白く東風の扉につづく
蛙いまだ冴えざえと田のつらなれる
花冷えと書き大陸の春おもふ
豆の花雨降ればすぐびしよ濡れに
雨の花菜寝がへりしてもつめたしや
ひとりゐにたへぬやなぎのひかりざま
くらきこころ人に見らるる春の雨
ひとりぐらしになれて春風門に満つ
ひそひそと落花に暮るる塀の内
青麦に心ゆとりを欲りすなり
青き踏む子をつれざりしさびしさに
遠蛙書肆のともしを痩せしめぬ
きさらぎの運河日輪を真上にす