和歌と俳句

大野林火

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帰還兵の大きあぐらに春立つ

樹のもとのはげしき雪解夕日さへ

あをあをと空を残して別れ

蕗の薹やまみづの湧くほとりかな

夕永し花圃のかなたの濃き燈

黙祷の子らのうへ白きわたる

東風つよし三日月の弧のやや歪み

嘶きてはからだひからせ東風の馬

旅にして長きホームの雪解の燈

いちめんの白雲となる春の坂

森の上春の太白かがやける

月痩する十二時すぎの夜の

巷への道白く東風の扉につづく

蛙いまだ冴えざえと田のつらなれる

花冷えと書き大陸の春おもふ

豆の花雨降ればすぐびしよ濡れに

雨の花菜寝がへりしてもつめたしや

ひとりゐにたへぬやなぎのひかりざま

くらきこころ人に見らるる春の雨

ひとりぐらしになれて春風門に満つ

ひそひそと落花に暮るる塀の内

青麦に心ゆとりを欲りすなり

青き踏む子をつれざりしさびしさに

遠蛙書肆のともしを痩せしめぬ

きさらぎの運河日輪を真上にす