和歌と俳句

大野林火

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梅白を張る九十九里曇りづめ

牛飼の歌碑見て東風の竹に遭ふ

冴返る石に刻みし無一塵

白魚和満月もまた賜ひけり

畦も田も青めり風に乗る雀

や女の鍬の音は低く

山ざくら水平の枝のさきに村

夜に着きて砂地踏みゆくおぼろかな

遠がすみせし梨花寄ればつばら澄む

散るよ白濤の生む風のつづき

梨花の香の水に似て喉うるほふ

春濤の一線余る小漁港

雪嶺より稜駈けりきて春の岬

や一人入りゆくたぶ樹叢

春惜しむひとり砂丘の一斜面

鳥雲に風紋とぎる旅の果て

紙漉きのこの婆死ねば一人減る

立てかけて女鍬あり山櫻

春濤の雨中も真白裾ひろぐ

舞へる油土塀に与謝の海

山中に白砂の寺苑初蝶来

流さるるやも知れぬ春田を打ちゐたり

春田なれ畦一尺に川へだて

苔敷きて元伊勢宮の遅桜