あたたかき甍の厚味割るるなよ
竹の葉を撫で分け頼む涅槃像
あたたかき甍は何処へ行かむとす
蓬摘む真似を男も恋ひつせり
水溜り花の満月映りゐず
銀鱗よ墓の附録のごと耕す
蝶の朝建てたる墓を平手打つ
夜なれば椿の霊を真似歩く
恋猫を軽く見て海雨降れり
歪曲や尼の手をとる椿の霊
橋暮れて子供の如し春の風
芹鳴るや饅頭四五個思い出づ
生き身こそ蹤跡無かれ桃の花
紅梅や筥を出て行く空気の珠
我が頭穴にあらずや落椿
草焼の火隠れの火の寂しさよ
桃の花母よと思えば父現われ
老椿己が莟に目つむれり
菫老いて同族の紺見当たらぬ
陽炎や我に無き人我をでる
皆行方不明の春に我は在り
蓬生の乱れは父母の乱れかな
蓬まで蓬まで来て老いざらむ
暁闇も人類無かれ桃の花
病雀は花のなかなり花の道