和歌と俳句

永田耕衣

春の鳥双眼鏡に一つかな

雛の日や海はかたぶき砂に沁み

春愁の灯もて埋るる佛かな

春先の正午愚妻と赤松と

夏近し父の着尺の縞こまか

春霞老母と天とややへだつ

紅梅を老の光のつつみたる

山深く松を植うるや春の風

村ぬちに霞ふるなり実朝忌

小櫻や一枚の衣あればよし

菜の花や老いてはならぬ膝頭

花杉や佛の群のおん昼間

生や白毫光のいざよへる

白毫光の萌ゆる匂ひ差し

瓜苗やたたみてうすきかたみわけ

恋猫の恋する猫で押し通す

春の蚊のつまづきとぶも寿司の味

無力にてつめたくしたり黄揚羽に

揚羽よりいつも近づき来るなり

うつうつと最高を行く揚羽蝶

老梅の隈なく花を著け終る

老梅に照らし出されて遊びけり

幼にして天を思へり春の暮

百姓に今夜もの花盛り

天隠れゆく揚羽蝶伴侶なく