ひろびろと母亡き春の暮つ方
かわかわと鴉が外す春の水
母の死や枝の先まで梅の花
花前にて舞ひたる蝶の捕らへらる
春菊や足袋に二重の皺が出来
貝深くしてこの汐干浜馴染あり
老梅も凡夫萬華の枝ひろげ
野の蜂や夢に夢継ぐ羽の色
角伸びて春耕の牛帰るかな
いづかたも水行く途中春の雨
梨の花家族のために見て帰る
梨花白し梨の木の無き所にも
我が来たる道の終りに揚羽蝶
楽々と落花途中の櫻かな
天心にして脇見せり春の雁
土蜘蛛の往き来も夢や花の家
藤房の途中がピクと動きたり
近海に鯛睦み居る涅槃像
降り行きて短かき芹を撫でにけり
川芹の短かき事に世を忘る
低声の鹿を聞きとむ春の暮
桃の花老の眼にこそ精しけれ
雑念に痩せ行く顔や蓬道
虎杖の折れ口うるむ山河かな
虎杖を折つて互ひの名を知らず