和歌と俳句

上嶋鬼貫

順ふや音なき花も耳の奥

うつろふや陽の花に陰の花

花散て又しづかなり園城寺

武士も見ながら散す花の風

咲からに見るからに花のちるからに

又ひとつ花につれゆく命かな

鶯よ花はちるとも飛びまはれ

あふみにも立や湖水の春霞

野田村に蜆あへけり藤の頃

春雨のけふばかりとて降にけり

淀川にすがた重たや水車

小夜更て川音高きまくら哉

闇の夜も又おもしろや水の星

十かへりのこゑやたえせん松の花

淀舟や夏の今来る山かづら

春と夏手さへ行かふ更衣

一日で花に久しきかな

我はまだ浮世をぬがでころもがへ

花惜しむ気も夏山の柴車

きかぬやうに人はいふなり時鳥

ほととぎす耳すり払ふ峠かな

津の国の玉川しれずほととぎす

空に鳴や水田の底のほととぎす

神々と春日茂りてつづら山

非情にも毛深き枇杷の若葉哉

心ならでまはるもおかし茶引草