珍しと我影さへや窓の月
木も草も世界皆花月の花
見るほどはいはれぬ月の今宵哉
名月や雨戸を明てとんで出る
更行や花は紙にも押すものを
此秋は膝に子のない月見哉
明なばの俤爰ら窓の月
虫も鳴月も更たり忌の中
どこ更る空のあてども雨の月
灯火やおのれがほなる雨の月
銀もてばとかくかしこし須磨の月
月代やむかしの近きすまの浦
樅の木のすんと立たる月夜哉
一とせの鮎もさびけり鈴鹿川
いとど鳴猫の竃にねむるかな
破芭蕉やぶれぬ時もばせを哉
宗因は春死なれしが秋の塚
菊の香のひとつをのこす匂ひ哉
よも尽じ草の翁を露払
ながき夜を疝気ひねりて旅ね哉
古寺や栗をいけたる椽の下
しろく候紅葉の外は奈良の町
目をさませ後しらぬ世の紅葉狩
ああ蕎麦ひとり茅屋の雨を臼にして
木にも似ず扨もちひさき榎の実哉
むかしやら今やらうつつ秋のくれ