春風の柔かに吹く憂ひかな
東風がうつ水田の面さと翳り
水見れば水やわらかくあたたかく
老妻の飾りし雛を見てやりぬ
時計の顔壁に退屈花曇
彳みて林檎の花の四方の中
陽炎にまつはられつつ怠けてをる
生けて待つ珠のやうなる白椿
雨くらくかくて春ゆく葉山吹
春の雨街濡れSHELLと紅く濡れ
ガソリンの真赤き天馬春の雨
花人の包み負へるはなつかしき
王宮の址の青きをふみにけり
春禽の声も万物相の中
江上にかたちづくれる春の雲
行厨の人参紅し花吹雪
百姓は鍬をかついで春の月
紅梅に彳ちて美し人の老
住みなして梅の籬をもあひたる
老木の芽をいそげるをあはれみぬ
惜しみなく枯萱濡るる春の雨
春月のかかりて暗きそこらかな
春水に沈みて真青なる蛇籠
草の戸に名刺を貼りて松の花