和歌と俳句

富安風生

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

春風の柔かに吹く憂ひかな

東風がうつ水田の面さと翳り

水見れば水やわらかくあたたかく

老妻の飾りしを見てやりぬ

時計の顔壁に退屈花曇

彳みて林檎の花の四方の中

陽炎にまつはられつつ怠けてをる

生けて待つ珠のやうなる白椿

雨くらくかくて春ゆく葉山吹

春の雨街濡れSHELLと紅く濡れ

ガソリンの真赤き天馬春の雨

花人の包み負へるはなつかしき

王宮の址の青きをふみにけり

春禽の声も万物相の中

江上にかたちづくれる春の雲

行厨の人参紅し花吹雪

百姓は鍬をかついで春の月

紅梅に彳ちて美し人の老

住みなして梅の籬をもあひたる

老木の芽をいそげるをあはれみぬ

惜しみなく枯萱濡るる春の雨

春月のかかりて暗きそこらかな

春水に沈みて真青なる蛇籠

草の戸に名刺を貼りて松の花