和歌と俳句

富安風生

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さしのぞく古井の水もぬるみけり

春泥の乾きそめたるかな

一瓣のはらりと解けし辛夷かな

蓮如忌やをさな覚えの御文章

かたまりて氷のひまの田芹かな

ほのぼのと芽ぐむけしきの櫟山

大風の中の聞こえをり

縁端にさしおく筆や人丸忌

草餅や足もとに着く渡し舟

海苔舟に埋まつてをる細江かな

百千鳥静が墓とつたへけり

御扉開くことなき木の芽かな

一もとの姥子の宿の遅ざくら

むさし野の古へよりのの茶屋

落椿ふむ外はなき径かな

静かにも人あちこちす馬酔木かな

初花も落葉松の芽もきのふけふ

色に出て落葉松の芽のあはあはし

山ざくら落葉松の芽に散りかかり

落葉松の芽は花よりもほのぼのと

蕗の薹高く茂れる苫屋かな

道ばたの義経神社蕗の薹

石狩の国原焼くる夜汽車かな

蕗の薹野川溢れて溺れをり

愛別といふ邑過ぎぬ残る雪