槙垣にさしたるごとく梅一枝
わが机妻が占めをり土筆むく
何もかも春蚊も親し草の庵
春の町帯のごとくに坂を垂れ
端然と座りて春を惜みけり
梨の花人の憂の蒼を帯ぶ
一片の落花の意をばよみとりぬ
妻老いぬ春の炬燵に額伏せ
塵労にまびるる老の朝寝かな
一めんの落花の水に蛙の眼
紐のごと径を垂れて春山家
春蘭や銷閑の具に墨戯あり
岩つかむ鳶もよろめき東風強し
春嶺を重ねて四万といふ名あり
母に逢ふごとく春日に甘えをり
菜の花といふ平凡を愛しけり
掌中の珠ともろめて蓬餅
かげろふと字にかくやうにかげろへる
白隠の前の春眠さめにけり
膝にとる猫雪のごとし春の宵
梨棚の下に遠くに春の雲
水口に百姓の詩の躑躅挿す
俤に城の結構松の花
沓脱に竹履をおくは春寒し