和歌と俳句

富安風生

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雪解水光琳笹に奏でをり

一片の笹の遮る雪解水

青麦や烏が歩く頭見ゆ

街の雨鶯餅がもう出たか

ものの芽にかがむ暇を奪ふ客

まさをなる空よりしだれざくらかな

春雨に汝も濡れて園の犬

園の雨はこべ最もみどりなる

木蓮と大きな門の記憶のみ

苗もの萌え朝寝の二階静なり

げんげんをむしりて蔽ふ魚籠の鮒

絲竹のいとまのお針針供養

窓くらく春霰とばす雲出たり

萌え出でしばかりの草を耘れり

何も居らず春水玉のごとき池

古利根の春は遅々たり犬ふぐり

飛白を染め斑をおきあはれ犬ふぐり

つんつんと風の躑躅の蕾立ち

苗代の畦さへを垂れにけり

春の雪ぼたとショールに花より大

麦踏も鳶の描く輪もくりかへし

椿落ち春潮ここに美しき

旅鞄おけばつういと茅花かな

成らぬことをすぐにあきらめ春の風