鋭声なる鵯去り落葉降るばかり
秋蕭条弾痕樟に古りゆけり
刃こぼれの一剣似たり破芭蕉
月一片篠原戦死の岨の上
吉次越狐の径となりて絶ゆ
時雨れつつ片虹立てり殉教碑
聖鐘の鳴りやみて雁わたりけり
青柚子や帳もあをき懺悔室
雁列の低さや迫門を渦ながれ
潮に映る十字架の前に浮ぶ鳰
蓼枯れぬ天使の翼折れし如
甘藷掘りしあとはむかしの土塁かも
おん母の恵みか冬の八重椿
跪坐石の跡に山茶花散り敷ける
残菊や昇天の霊二十六
天国の夕焼を見ずや地は枯れても
霜に明け殉教の像はみな濡れぬ
薔薇咲けり霜に明けゆく司祭館
大霜の日ぞ絵硝子を染めにける
蒼天や舌出す凧の三番叟
八重葎風なき凧の沈みけり
劇半ば披露のことや初芝居
うぐひすや磯も見えざるあさがすみ
うぐひすや疾風のはしる海の色
磯鵯の囀りかくす松の花
蒲公英や利島の失せし沖の凪
蛙田を見さるく辻に苗木市
藤垂れて一園殊に春ふかし
あさかぜの渦のこし去る白牡丹
藁葺や牡丹の客に卓ひとつ