知られずとゐて見守らるる雀の巣
傾いてあと揺れに触れ東風の竹
雛の夜勉学椅子に脚を垂り
梅に早く来しを憾むに渓の雨
土手焼く火浮田の芦を焦がしけり
うぐひすや末黒芦生が見の限り
今日焼きし山と思へず夕べ澄み
雨がちに春は逝くなり沼の波
朝雨に木椅子濡れをり楓の芽
若真菰かへれぬ鴨をかばひをり
曇り来て春嶺いくつ色失ふ
春嶺の涯藍濃きは伊豆ヶ嶽
遅ざくら咲き覆ふやわが句碑のうへ
ひと本の遠山桜日があたり
夕雲にあを空のこる欅の芽
芯立てて松は匂へり海昃り
松花粉飛ぶ日は窓も閉ざしけむ
燧灘に朝日さしくる松の芯
紅梅や雲さざなみに晴れ来たり
翳し合ふうす紅梅に弱日さし
生きものに恋の季節の遠辛夷
覚めて聞くおぼろ夜らしき外の音
夜々を雨江岸青む時かさじ
本意なくも帰り促す春深雪