萱原は急ぐ雪解に囀れり
梅の香やおのづから揺る千羽鶴
楢櫟萌えて真昼をおぼろの日
初蛙曇を深く滅ぶ田に
蝌蚪うまれ廃田の春闌に
芹摘の来ては壊え畦なほ細る
櫻蘂ふるや臨済大道場
天下禅林麗らに暗き朱塗輿
ゆく春の柏槇経たる幾世紀
水張つて飛燕きらめく田のいくつ
晴れんとはしつつ日ささず棚の梨花
咲き満ちし櫻に芦生息ころす
咲き満ちし櫻の隙に沼の景
出口なき沼は流るる夕ざくら
紅梅や小綬鶏垣をくぐり来る
鎌倉は面影荒び梅匂ふ
牡丹の芽ほぐる速さに追ひつけず
春を雪こころの端に希ひしも
朧夜の角触れ睦ぶ槽の蜷
緋紅梅衰容見るに耐へざらむ
皮だけの老梅よじれ勢ひ咲く
またしても梅見のわれに午後曇る
梅の園夕べを待たず日影消ゆ
梅寒くたがひに言葉少なかり