和歌と俳句

篠田悌二郎

萱原は急ぐ雪解に囀れり

梅の香やおのづから揺る千羽鶴

楢櫟萌えて真昼をおぼろの日

初蛙曇を深く滅ぶ田に

蝌蚪うまれ廃田の春闌に

芹摘の来ては壊え畦なほ細る

櫻蘂ふるや臨済大道場

天下禅林麗らに暗き朱塗輿

ゆく春の柏槇経たる幾世紀

水張つて飛燕きらめく田のいくつ

晴れんとはしつつ日ささず棚の梨花

咲き満ちしに芦生息ころす

咲き満ちしの隙に沼の景

出口なき沼は流るる夕ざくら

春嶺の遙かの奥に遠蔵王

紅梅や小綬鶏垣をくぐり来る

鎌倉は面影荒び梅匂ふ

牡丹の芽ほぐる速さに追ひつけず

春を雪こころの端に希ひしも

朧夜の角触れ睦ぶ槽の蜷

緋紅梅衰容見るに耐へざらむ

皮だけの老梅よじれ勢ひ咲く

またしても梅見のわれに午後曇る

梅の園夕べを待たず日影消ゆ

梅寒くたがひに言葉少なかり