篠田悌二郎
梨棚に隣る春田を漲らす
八重桜端山さへまだ雪のこす
磐梯の斑雪飛び来て咲く辛夷
萱生薙ぎ尽くし一塊のこる雪
うぐひすや景荒凉となるにつれ
猫魔頑と春嶺たるを拒みをり
穢れざる水芭蕉のみ記憶せむ
遠さくら雨意深まるに従ひて
忘れめや牧の桜に雨やどり
安達太良の雨靄迫る牧さくら
牧羊に芳しき草柵距つ
雨呼びて遠筒鳥が春逝かす
初蝶を大黒揚羽この年は
春深し赤芽柏もただの木に
老はおのれ断固詠はじ芽芍薬
雪の畦さらに細まり芹涵る
紅梅やくるまを洗ふ納屋庇
雪炎をあげて湖邨の春急ぐ
榛の花垂り雪嶺の線勁し
安達太良は北の雄嶺ぞ帰る雁
囀や牧の端より登山道
中空に雪嶺つらね桃花村
萱くぐり萱に音立て残る雪
枯蔓をまとひ靡かせ谷地の梅
老梅の塞ぐ小径にみちうまる