和歌と俳句

高浜虚子

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ほろほろと泣き合ふ尼や山葵漬

草餅や出流れの茶をあたためて

三つ食へば葉三片や桜餅

春月に網うち下る小舟かな

朧夜や一力を出る小提灯

朧夜や東上りに都の灯

朧夜や裏町にある小料理屋

叡山を下るや花菜見えそむる

裏山に藤波かかるお寺かな

如月の駕に火を抱く山路かな

白々と寝釈迦の顔の胡粉かな

裏打の反古の悲しや涅槃像

挿木して我に後なき思ひかな

垣根草芳しうして宿恋し

叡山を下りて母とふ暮の春

春惜む人白面の書生かな

春淋しうき世話をしに上る

賃仕事ためて遊ぶや針供養

おのづから水はぬるみぬ薪樵る

我妻もかすめばをかし根深畑

灯火の下に土産や桜餅

連翹に見えて居るなり隠れんぼ

春の夜や恋の奴の二人住み

春の夜ををかしがらせぬたいこもち

高浪の上に描くや春の月