和歌と俳句

與謝野晶子

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なさけあせし 文みて病みて おとろへて かくても人を 猶恋ひわたる

夜の神の あともとめよる しら綾の 鬢の香朝の 春雨の宿

その子ここに 夕片笑みの 二十びと 虹のはしらを 説くに隠れぬ

このあした 君があげたる みどり子の やがて得む恋 うつくしかれな

恋の神に むくいまつりし 今日の歌 ゑにしの神は いつ受けまさむ

かくてなほ あくがれますか 真善美 わが手の花は くれなゐよ君

くろ髪の 千すぢの髪の みだれ髪 かつおもひみだれ おもひみだるる

そよ理想 おもひにうすき 身なればか 朝の露草 人ねたかりし

とどめあへぬ そぞろ心は 人しらむ くづれし牡丹 さぎぬに紅き

「あらざりき」そは後の人の つぶやきし 我には永久の うつくしき夢

行く春の 一絃一柱に おもひあり さいへ火かげの わが髪ながき

のらす神 あふぎ見するに 瞼おもき わが世の闇の 夢の小夜中

そのわかき 羊は誰に 似たるぞの 瞳の御色 野は夕なりし

あえかなる 白きうすもの まなじりの 火かげの栄の 詛はしき君

紅梅に そぞろゆきたる 京の山 叔母の尼すむ 寺は訪はざりし

くさぐさの 色ある花に よそはれし 棺のなかの 友うつくしき

五つとせは 夢にあらずよ みそなはせ 春に色なき 草ながき里

すげ笠に あるべき歌と 強ひゆきぬ 若葉よ薫れ 生駒葛城

裾たるる 紫ひくき 根なし雲 牡丹が夢の 真昼しづけき

紫の わが世の恋の あさぼらけ 諸手のかをり 追風ながき