いとせめて もゆるがままに もえしめよ 斯くぞ覚ゆる 暮れて行く春
春みじかし 何に不滅の 命ぞと ちからある乳を 手にさぐらせぬ
夜の室に 絵の具かぎよる 懸想の子 太古の神に 春似たらずや
そのはてに のこるは何と 問ふな説くな 友よ歌あれ 終の十字架
わかき子が 胸の小琴の 音を知るや 旅ねの君よ たまくらかさむ
松かげに またも相見る 君とわれ ゑにしの神を にくしとおぼすな
きのふをば 千とせの前の 世とも思ひ 御手なほ肩に 有りとも思ふ
歌は君 酔ひのすさびと 墨ひかば さても消ゆべし さても消ぬべし
神よとはに わかきまどひの あやまちと この子の悔ゆる 歌ききますな
湯あがりを 御風めすなの わが上衣 ゑんじむらさき 人うつくしき
さればとて おもにうすぎぬ かづきなれず 春ゆるしませ 中の小屏風
しら綾に 鬢の香しみし 夜着の襟 そむるに歌の なきにしもあらず
夕ぐれの 霧のまがひも さとしなりき 消えしともしび 神うつくしき
もゆる口に なにを含まむ ぬれといひし 人のをゆびの 血は涸れはてぬ
人の子の 恋をもとむる 唇に 毒ある蜜を われぬらむ願ひ
ここに三とせ 人の名を見ず その詩よまず 過すはよわき よわき心なり
梅の渓の 靄くれなゐの 朝すがた 山うつくしき 我れうつくしき
ぬしや誰れ ねぶの木かげの 釣床の 網のめもるる 水色のきぬ
歌に声の うつくしかりし 旅人の 行手の村の 桃しろかれな
朝の雨に つばさしめりし 鶯を 打たむの袖の さだすぎし君