和歌と俳句

與謝野晶子

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その血潮 ふたりは吐かぬ ちぎりなりき 春を山蓼 たづねますな君

秋を三人 椎の実なげし 鯉やいづこ 池の朝かぜ 手と手つめたき

かの空よ 若狭は北よ われ載せて 行く雲なきか 西の京の山

ひと花は みづから溪に もとめきませ 若狭の雪に 堪へむ紅

「筆のあとに 山居のさまを 知りたまへ」 人への人の 文さりげなき

京はものの つらきところと 書きさして 見おろしませる 加茂の河しろき

恨みまつる 湯におりしまの 一人居を 歌なかりきの 君へだてあり

秋の衾 あしたわびし身 うらめしき つめたきためし 春の京に得ぬ

わすれては 谿へおります うしろ影 ほそき御肩に 春の日よわき

京の鐘 この日このとき 我れあらず この日このとき 人と人を泣きぬ

琵琶の海 山ごえ行かむ いざと云ひし 秋よ三人よ 人そぞろなりし

京の水の 深み見おろし 秋を人の 裂きし小指の 血のあと寒き

山蓼の それよりふかき くれなゐは 梅よはばかれ 神にとがおはむ

魔のまへに 理想くだきし よわき子と 友のゆふべを ゆびさしますな

魔のわざを 神のさだめと 眼を閉ぢし 友の片手の 花あやぶみぬ

歌をかぞへ その子この子に ならふなの まだ寸ならぬ 白百合の芽よ