和歌と俳句

與謝野晶子

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明日を思ひ 明日の今おもひ 宿の戸に 倚る子やよわき 暮れそめぬ

金色の 翅あるわらは 躑躅くはへ 小舟こぎくる うつくしき川

月こよひ いたみの眉は てらさざるに 琵琶だく人の 年とひますな

恋をわれ もろしと知りぬ 別れかね おさへし袂 風の吹きし時

星の世の むくのしらぎぬ かばかりに 染めしは誰の とがとおぼすぞ

わかき子の こがれしよりは 鑿のにほひ 美妙の御相 けふ身にしみぬ

清し高し さはいへさびし 白銀の しろきほのほと 人の集見し

雁よそよ わがさびしきは 南なり のこりの恋の よしなき朝夕

来し秋の 何に似たるの わが命 せましちひさき 萩よ紫苑よ

あをき 堤にいつか 立つや我れ 水はさばかり 流とからず

幸おはせ 羽やはらかき 鳩とらへ 罪ただしたる 高き君たち

打ちますに しろがねの鞭 うつくしき 愚かよ泣くか 名にうとき羊

誰に似むの おもひ問はれし ひねもす やは肌もゆる 血のけに泣きぬ

庫裏の藤に 春ゆく宵の ものぐるひ 御経のいのち うつつをかしき

春の虹 ねりのくけ紐 たぐります 羞ひ神の 暁のかをりよ

室の神に 御肩かけつつ ひれふしぬ ゑんじなればの 宵の一襲

天の才 ここににほひの 美しき 春をゆふべに 集ゆるさずや

消えて凝りて 石と成らむの 白桔梗 秋の野生の 趣味さて問ふな

歌の手に 葡萄をぬすむ 子の髮の やはらかいかな 虹のあさあけ

そと祕めし 春のゆふべの ちさき夢 はぐれさせつる 十三絃よ