和歌と俳句

高浜虚子

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人を訪ひ今日立秋の時儀を陣べ

うち立てて七夕紙は少なくて

うち立てて七夕竹を恋ふるかな

颱風の圏内にあり萩芙蓉

野分あと早くも落葉掃ける門

心易き家郷のや暗くとも

垣外を通る電車やの庵

人々が心に描き子規祭る

又一つ岩現れ来秋の波

蠅一つつきて離れず秋の濱

竹伐りで道に出し居る行手かな

尼寺の戒律ここに唐辛子

秋日ちよと昃りて見せつよき庭を

秋晴やなほもはびこる藪からし

生徒皆築地に凭れ秋の晴

秋山家障子をたてる音響く

魂の一と揺るぎして秋の風

秋雨の今日も汐木を拾ひ居り

智照尼の衣短し薄紅葉

遠足の子と女教師と薄紅葉

水飲むが如く食ふ酔のあと

尼寺の紅葉やとぼそ埒を結ひ

大紅葉燃え上らんとしつつあり

来る客を一々迎へ門紅葉

紅葉山映る大玻璃障子かな

能衣装うちかけしごと庭紅葉

紅葉見や尼も小縁にかしこまり

あの音は如何なる音ぞ秋の立つ

袖垣に桔梗ついと出秋の立つ

銀河中天老の力をそれに得つ

昴明く銀河の暗きところあり

銀河西へ人は東へ流れ星

虚子一人銀河と共に西へ行く

西方の浄土は銀河落るところ

わが終り銀河の中に身を投げん

香煙に心を残し墓参り

伊予の日の暑しと思ふ墓参り

墓参して直ちに海に浮びけり

人生は陳腐なるかな走馬燈

老人の日課の如く走馬燈

ものの絵にあるげの庭の花芙蓉

朝顔の大輪にして重なりて

よき部屋の深き廂や萩の花

ひろひためたるを土産かな

伐出せし竹の太さや英勝寺

雲あれど無きが如くに秋日和

山川のくだくる水に秋の蝶

本尊に茶を供ずれば秋蚊出る

秋の波たたみたたみて火の国へ

海底に珊瑚花咲く鯊を釣る

桶に落つ秋水杓の廻り居り

秋風に木々の透間の見えそめし

秋雨や庭の帚目尚存す

稲筵あり飯の山あり昔今

稲筵つづきに伊予に這入りけり

温泉煙に絶えず揺れゐる烏瓜

巫女案内紅葉をくぐり橋を過ぎ

深耶馬にトラック二台紅葉狩