和歌と俳句

西東三鬼

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新年を見る薔薇色の富士にのみ

一波い消ゆる書初め砂浜に

初漁を待つや枕木に油さし

初日さす畦老農の二本杖

刈株の鎌跡ななめ正月休み

熱湯を噴く巌天に初鴉

つかみ啖う貧の筋骨たくましく

ばら色のままに富士凍て草城忌

大寒の富士へ向つて舟押し出す

小鳥の巣ほどけ吹かれて深む

雪片をうけて童女の舌ひつこむ

北極星ひかり生きもの餅の黴

薔薇の芽のにきびの如し寒日ざし

寒の雨東京に馬見ずなりぬ

鳴るポンプ病者養う寒の水

石橋に厚さ増しつつ軽し

凍り田に帰り忽ち鷺凍る

影過ぎてまたざらざらとの壁

老いの足小刻み麦と光踏み

耳に手を添え耕し同志遠い話

野良犬とわれに紅血の浜

春山の氷柱みずから落ちし音

生ける枝杖とし春の尾根伝い

紅梅のみなぎる枝に死せる富士

断層に富士消えて我消えて

寒き江に顔を浮べて魚泳ぐ

弟子の忌や紙の桜に小提灯

春昼の巌やしたたり絞りだし

うぐいすや巌の眠りの真昼時

すみれ揺れ大鋸の急がぬ音

紋章の蝶消え春の巌のこる

日の遠さ撓めしばられて梨芽吹く

春浜に食えるもの尋め老婆の眼

富士満面桜満開きようも不漁か

ぼろの旗なして若布に東風荒し

網つくろう胡座どつかと春の浜

荒れる海「わしらに花見はない」と漁夫

荒海や巌をあゆみて倒る

断崖下の海足裏おどり母の海女

流木を火となし母の海女を待つ

太陽へ海女の太腕鮑ささげ

浮くたびに磯笛はげし海中暗し

海女浮けよ焚火に石が爆ぜ跳べり