庭広しよりどころなく蝶の飛ぶ 虚子
線香の煙にあそぶ蝶々かな 虚子
蝶の影紙漉く槽は波立ちて 秋櫻子
朽葉色蝶ひらひらと芭蕉林 汀女
マッチ摺ればマッチもよき香蝶の昼 汀女
断層に蝶富士消えて我消えて 三鬼
荒海や巌をあゆみて蝶倒る 三鬼
一粒ずつ砂利確かめて河原の蝶 三鬼
万年の瀞の渦巻蝶溺れ 三鬼
初蝶を見て来しことを言ひ忘れ 立子
白塗の浅き夢みし蝶の昼 不死男
白樺の庭東京の蝶弱し 不死男
蝶舞へる油土塀に与謝の海 林火
山中に白砂の寺苑初蝶来 林火
婆が来て蝶に鏡の盥置く 不死男
初蝶を大黒揚羽この年は 悌二郎
蝶舞へり乗りてたのしき口車 楸邨
蝶一つ火山灰地の畝もろし 静塔
ひとりをり身の内そとに蝶舞ひて 楸邨
蝶とんでふはりふはりと田の形 双魚
ひとが来て蝶去る我の無言界 楸邨
寺院より蝶飛んで奈良中院町 林火
舞ひ落つることを初蝶かさねつつ 爽雨
初蝶や帚目に庭よみがへり 汀女
初蝶の失せて濃かりし影のこと 爽雨
初蝶の黄の確かさの一閃す 汀女
蝶の昼家伝のものの貧しとも 汀女
初蝶の光りとのみに庭を過ぐ 爽雨
命より俳諧重し蝶を待つ みどり女
我庭に初蝶とどめがたきかな みどり女
初蝶の日照り日曇り落ちつかず みどり女
黄の蝶は韓より渡り来し蝶か 誓子