和歌と俳句

初蝶来何色と問ふ黄と答ふ 虚子

人と蝶美しく又はかなけれ 虚子

蝶飛びて其あとに曳く老の杖 虚子

皿洗ふ絵模様抜けて飛ぶ蝶か 虚子

円を描き弧を描く花の蝶々かな 虚子

はつ蝶や境内それし石だたみ 万太郎

なほ黄蝶たりや食はれて翅ばかり 誓子

ふえてきし蝶のまぶしき毬となる 林火

蝶のぼる空たかくたかくビルディング 林火

動かぬ蝶前後左右に墓ありて 三鬼

わが天に蝶昇りつめ消え去りし 三鬼

断層の夜明けを蝶が這ひのぼる 三鬼

本堂の前の大地や蝶一点 林火

耕せば土に初蝶きてとまる 林火

ただ懶し干潟ひろくてあてなき蝶 林火

旅五日鉄路のさびにつく蝶々 綾子

白蝶々飛び去り何か失ひし 綾子

鉄塔があやつる蝶の数知れず 槐太

蝶の恋まぶしきまでに昇りつめ 朱鳥

蝶の渦眠うなりたる静臥時 朱鳥

水飲みに兵士の如く蝶来る 朱鳥

蝶の列吹き飛ばしたる帚かな 朱鳥

蝶溺れ油の如き潦 朱鳥

羽痛めたる蝶々の憂き眉毛 虚子

山の蝶仏の如く美しき 虚子

早瀬波わたる蝶あり溺れつつ 秋櫻子

岩山に生れて岩の蝶黒し 三鬼

初蝶はひらひらと考へをもよぎる 綾子

繋がれし犬が退屈蝶が飛び 虚子

頭涼し麦生ひたすら蝶々行き 綾子

光ぎつしりと蝶老ゆることありや 誓子

庭に下り話しつづける蝶は飛ぶ 虚子

蝶が来る阿修羅合掌の他の掌に 多佳子

人声をよろこぶものに深山蝶 汀女

初蝶や鐘に熔けたる銀が鳴る 静塔

初蝶の陥るごとくにとびつづけ 爽雨

日をへつつ初蝶のあと蝶を見ず 爽雨

初蝶に触れんと墓石伸び上る 鷹女