和歌と俳句

蝙蝠 蚊食鳥

蝙蝠や遅き子に立つ門の母 虚子

蝙蝠や町の夕べは人くさき 亞浪

蝙蝠や暮れぐれの佐渡まだ見ゆる 花蓑

鰡はねて河面暗し蚊喰鳥 秋櫻子

草原やひらめきそめし蚊喰鳥 石鼎

夜明けたる湖上に消えぬ蚊喰鳥 石鼎

蝙蝠の啼く音や落つる草の上 石鼎

蝙蝠や夕べの色の燕子花 石鼎

入日澄む雲の端に浮く蚊喰鳥 石鼎

提灯に来てもどりゆく蚊喰鳥 青邨

歌舞伎座へ橋々かかり蚊喰鳥 青邨

家裏をはしる電車や蚊喰鳥 櫻坡子

蝙蝠や原蒲原は間の宿 虚子

蝙蝠に打水の杓高く上げ 虚子

米洗ふ母とある子や蚊喰鳥 汀女

留守なりし蜘蛛ももどりぬ蚊喰鳥 汀女

河が呑む小石どんぶと蚊喰鳥 汀女

かはほりは月夜の襁褓嗅ぎました 鳳作

草の井をいくつも出でぬ蚊食鳥 石鼎

風に添うて蝙蝠空へあがりけり 石鼎

耳たてて蝙蝠たちぬ草井より 石鼎

蝙蝠のはりついてまたとびにけり 石鼎

金星を背負ふ翼や蚊食鳥 石鼎

火星涼しかはほりぬけて来りしか 石鼎

蝙蝠の耳こがねする夕陽かな 石鼎

夕べさりし緋のぱらそるや蚊食鳥 石鼎

おばしまにかはほりの闇来て触るる しづの女

蝙蝠を闇に見たりきみとる夜半 多佳子

かはほりは火星を逐はれ来しけもの 鷹女

かはほりや窓の女をかすめ飛ぶ 虚子

金の月へ遠き蝙蝠とんで消ゆ 石鼎

明治より古りし官舎や蚊喰鳥 汀女

蝙蝠や酒貯へてある館 占魚

ぬかるみに蝙蝠影を弄ぶ 林火

夜いたく更けてふたたび蚊食鳥 槐太

かはほりや夕されば希望獲る奇癖 草田男

かはほりや池にうつれる母の顔 信子

蝙蝠仰ぐ善人の腕はばたきて 三鬼

蝙蝠飛ぶよ己が残影さがしつつ 草田男

蝙蝠を吹き出す爺ののど佛 静塔

蝙蝠に稽古囃子のはじめかな 波郷

蝙蝠や父の洗濯ばたりばたり 草田男

病院にとぶ蝙蝠は誰が化身 誓子

蝙蝠や袋の町の関ケ原 青畝