和歌と俳句

中村汀女

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隣席の扇使ひは絶えてつづく

みづからも開く扇子の美しく

如何な日もひとりはさびし青芒

汗の子の額のをかきわけつ

晩涼や座敷相似て子供似て

涼しけれ歩廊とどまる人もなく

色淡き夏木描ける吾子いとし

沐浴しにややながかりし洗ひ髪

髪洗ふ湯は耐へがたく熱く好き

洗ひ髪今ぞ涼しく闇に梳く

茄子育ちトマトは君に枯れて居り

明治より古りし官舎や蚊喰鳥

打水をする住吉に来て薄暑

雨風の牡丹の他に卓に挿し

おくれ咲く牡丹を剪りていとほしむ

おとなしき吾子を遠目や祭宮

緑蔭にわたる大幹やはらかに

セルを着て父を敬ふかぎりなし

松蝉や乳房ふくむもふくますも

を掟の如く届けもす

十薬の正しき花に心触る

目もあやにかたち作りぬ帚草

帚木を植ゑてひそかに暑に耐へて

枇杷を食ぶ完き閑を得んとなし