和歌と俳句

中村汀女

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心ふとうつろにつぶすかな

金魚鉢に映る小いさき町を愛す

緑蔭の卓また清きひとりかな

晩涼の船足揃ふ艪音かな

明易き夜を漕ぐ舟の孤燈かな

ふるさとや実梅を量る母の枡

月見草夜発ちの船のさみしさよ

若葉冷高きにのみや山の蝶

初蝉や己れゆるしてまどろめば

一歩ごと別の清水の音聞ゆ

冷房の風通ふなり貸植木

あやまたず声とどきけり青芒

走り出て闇やはらかや蛍狩

河骨やしんと日傘を透す日に

水打つてふたたび閉ざす門扉かな

梅天やさびしさ極む心の石

荒梅雨や石の小ささに名を刻み

夕焼遥か祭ゆかたの着下ろしに

蚊柱のわれを否みて傾ける

滴りの正しく太く岩濡らす

熟るる島の碑の文字すべて悲話

冷蔵庫ひとらはさみし開けても見

単帯或る日は心くじけつつ

人影に落つ滴りのきびしさよ

町音も何か支へや夏座敷