心ふとうつろにつぶす苺かな
金魚鉢に映る小いさき町を愛す
緑蔭の卓また清きひとりかな
晩涼の船足揃ふ艪音かな
明易き夜を漕ぐ舟の孤燈かな
ふるさとや実梅を量る母の枡
月見草夜発ちの船のさみしさよ
若葉冷高きにのみや山の蝶
初蝉や己れゆるしてまどろめば
一歩ごと別の清水の音聞ゆ
冷房の風通ふなり貸植木
あやまたず声とどきけり青芒
走り出て闇やはらかや蛍狩
河骨やしんと日傘を透す日に
水打つてふたたび閉ざす門扉かな
梅天やさびしさ極む心の石
荒梅雨や石の小ささに名を刻み
夕焼遥か祭ゆかたの着下ろしに
蚊柱のわれを否みて傾ける
滴りの正しく太く岩濡らす
麦熟るる島の碑の文字すべて悲話
冷蔵庫ひとらはさみし開けても見
単帯或る日は心くじけつつ
人影に落つ滴りのきびしさよ
町音も何か支へや夏座敷