大櫨の雨後の一樹の蜘蛛の網
ひとり来て母を戀へりし清水かな
棲む魚の砂走りせる清水かな
涼しけれ一人旅する手を洗ひ
水を打つ故郷再び離るべく
水打ちてよごせし足の美しく
夏草の花かきわけて住みに来て
いつの世も祷りは切や百日紅
品川にあれば旅めく初袷
ひとり行く新樹の夜道砥の如し
夏帯やわが娘きびしく育てつつ
片蔭をもとめてすでに海の凪
晩涼に空に連らなる出船あり
夕焼けて山々の裾人家かな
衣紋竹西日逃るるすべもなや
父在しし梢のままに夏の月
麦刈りの終んぬる野をみそなはせ
夕焼けも知らでや母は只ひとり
子を遠く大夕焼に合掌す
その後の母とある夜の蛍かな
一脚の運び残せし籐椅子かな
炎天や早焦土とも思はなく