浴衣着てひとりの涼や真暗がり
虹立つや麦藁帽の庇より
真円き月と思へば夏祭
かたくなにめぐる灯蟲の輪のもとに
風鈴は行人にまた隣人に
樫若葉夏はじめての雲が湧き
涼風のひたと吹き曲ぐ帽のへり
衣更へて遠からねども橋ひとつ
滴りに見えゐし風も落ちにけり
さみだれに呼ばれて犬のかへりみる
冷し瓜揺れ別れたる噴き井かな
母の家立出づるより雲の峯
遠雷や泳ぎ子よりも低き辺に
旅遠き雲こそかかれ栗若葉
短夜の櫛一枚や旅衣
窓の風金魚は別に泳ぎ居り
やはらかに金魚は網にさからひぬ
棕梠の花また朝影の濃きところ
野茨や母は齢を日に重ね
麦秋の母をひとりの野の起伏
枇杷買ひて夜の深さに枇杷匂ふ
夕蜘蛛のつつと下り来る迅さ見る
夏雲の湧きてさだまる心あり