和歌と俳句

中村汀女

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梅の實の今少しほどふとりゐき

更衣ひとの煙草の香の来るも

敷きのぶるさみだれの夜の臥床かな

夏布団病篤ければおとなしく

いとけなく淡き模様の夏布団

短夜のほそめほそめし灯のもとに

病院の廊下鏡の夜半の夏

五月雨や窓に隣の煙出

病める子の夜は眠るなる蛍籠

夏の日を或る子は泣いてばかりかな

かいま見し浴衣童の今逝くと

朝支度死にし金魚を捨つことも

附添の退屈もしつ水中花

おいて来し子ほどに遠きのあり

自動車に松葉牡丹の照りかへし

末の子がと言葉を使ふほど

雨のすぢ太きが走る灯の涼し

白扇の上昇するや昇降機

かの扇わが失くしたる舟あそび

雨すでに過ぎたるのさわやかに

たまたまの日も向日葵の失へる

米洗ふ母とある子や蚊喰鳥

朝蝉やぽんぽん船は遠く遠く

この夏もゆく週末の泳ぎ宿

たらちねの晝寐寐入らせたまひけり