和歌と俳句

中村汀女

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

磯薄暑遊覧船はぽつりと来

鐡線花馬蹄の音のさしかかる

なほ北に行く汽車とまり夏の月

三方に蝶のわかれし立葵

いづこへか兜蟲やり登校す

ねむたさがからだとらへぬ油蟲

ねむたさの灯の暗うなる油蟲

日焼せしままわづらひの肌を脱ぎ

泳ぎ女の聲聞ゆほど蝉静か

言ひのこす用の多さよ柿若葉

みどり兒と蛙鳴く田を夕眺め

山の子のいつもひとりで雨蛙

病人を負うて一里や閑古鳥

すいかづらたまの揚羽の長くゐず

矢車草誰が夏帽も新しく

芋の芽のとりどり青く主とあり

狩の子供ばかりに人だかり

夏草や母親のみな衣黒し

白扇を止むる間なしに頬こそげ

月日経ち松葉牡丹の町も好き

晩涼の子や太き犬いつくしみ

朝顔に口笛ひようと夏休

遠雷や睡ればいまだいとけなく

船蟲に濱の人出のみぢかさよ