真上なる鯉幟まづ誘ひけり
はたはたと幟の影の打つ如し
柔かに菖蒲しをれて子の軒に
麥熟れて夕真白き障子かな
田植笠紐結へたる聲となる
五月雨や少し抱かれて睡りし子
さみだるる心電車をやり過す
瓜もみに来る市の音快し
夏の蝶忘れたるほど風に耐へ
夏蝶の胸打つばかり疾きことも
緑蔭を出て挙手の禮きびしかり
緑蔭のなほ卓移すべく広く
よろこびて落つ水待つて 瀧走る
瀧水のわかれの水に垣を結ひ
紫陽花の藍きはまると見る日かな
噴水のさだめなき穂にうつつかな
黴煙上がりしなかの己かな
たらちねの母の御手なる黴のもの
萍や月夜さだかにかすかにも
夜濯に遠稲妻ちかちかと
夜濯や前髪ほつれふりあげて
夜濯のしぼりし水の美しく
夜濯のもの真つ白に輝やかに
夜濯の軒の深さに小夕立
夜濯の終りたる戸をひそとさし