和歌と俳句

中村汀女

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ときをりの人聲の田を植ゑ去れり

噴水の玉とびちがふ五月かな

子供等の英語の窓の花葵

屋根の上の異国の旗や雲の峰

夕立や船影白くかき消つつ

ガソリンと街に描く灯や夜半の夏

香水の坂にかかりて匂ひ来し

夏の蝶池の面に死ぬ水輪かな

舟にさす日傘のうちの花藻かな

風鈴のそろはぬ音なれ二つ吊り

花柘榴また黒揚羽放ち居し

かいまみし人の廚や花葵

晝寝ざめ面に垂るる簾かな

ぶつかるは灯に急く途の金亀虫

凌霄花や問ふべくもなき門つづき

船蟲に忽然としてヨツトかな

今日の日の凌霄花にまで傾きし

アンテナの竿をのぼりし月涼し

風鈴のもつるるほどに涼しけれ

病室をうちといふ子に来るかな

沖の帆にいつも日の照り紅蜀葵

夕立の前ぶれ雨や紅蜀葵

汗ばみて来て香水のよく匂ふ