花蜜柑追風に香を焚き込めし
天の最中に夏山の暮れ仕度
夏山の系捻れたる裏が見え
燈の汽車が過ぎ行く伊賀の多蛾地帯
泳ぎより歩行に移るその境
峰雲も円空の彫り海に立つ
蟷螂に有無を云はさぬ頭を押さへ
残照をそつくりその儘芒の穂
雪降るな人間魚雷いまぼろぼろ
天耕の峰に達して峰を越す
瞬間に彎曲の鉄寒曝し
芭蕉忌の選して御堂筋が見ゆ
蜜柑山南へ袖を両開き
鞦韆に腰椅子もなき冬の苑
寒庭に在る石更に省くべし
日本がここに集る初詣
初凪の沖航く帆のみ檣のみ
部屋鏡輪飾の裏生写し
駅に今日始めて会うてスキー族
直立のスキーに手掛け立ち憩ふ
近海にヨットさびしや花の頃
海の船霞む市中に海の笛
耕牛の四肢付根まで泥没す
農夫と牛農夫と耕耘機が帰る
浜に干す海女が生身に付けしもの
働ける海女のすべたを眼に収む
仔の牛も後肢あげて虻を追ふ
君ひとり除け者花の桜見ず
藤の天重き飛行機ゆつくり飛ぶ
海苔林舳先しづかにしづかに入る
蝙蝠が病の暮色塗り重ね
病院にとぶ蝙蝠は誰が化身
月山の襞に残れる雪の意味
残雪が少し二丈の雪の残
硝子越し出羽の天狗蛾燈を窺ふ