君が琴塵を払へば鳴る秋か
ただ一羽来る夜ありけり月の雁
明けの菊色未だしき枕元
井戸の水汲む白菊の晨哉
蔓で提げる目黒の菊を小鉢哉
いたつきも怠る宵や秋の雨
形ばかり浴す菊の二日哉
菊の香や幾鉢置いて南縁
生垣の隙より菊の渋谷かな
蔵沢の竹を得てより露の庵
有る程の菊抛げ入れよ棺の中
萩に置く露の重きに病む身かな
冷やかな脈を護りぬ夜明方
迎火を焚いて誰待つ絽の羽織
朝寒や生きたる骨を動かさず
無花果や竿に草紙を縁の先
匂欄の擬宝珠に一つ蜻蛉哉
冷かな足と思ひぬ病んでより
冷やかに触れても見たる擬宝珠哉
稲妻に近くて眠り安からず
たのまれて戒名選む鶏頭哉
空に雲秋立つ台に上りけり
鬢の影鏡にそよと今朝の秋
朝貌や鳴海絞を朝のうち
懸物の軸だけ落ちて壁の秋
壁に達磨それも墨画の芒哉
壁に映る芭蕉夢かや戦ぐ音
湯壷から首丈出せば野菊哉
五六本なれど靡けばすすき哉
厳かに松明振り行くや星月夜
四五本の竹をあつめて月夜哉
葉鶏頭高さ五尺に育てけり
我一人行く野の末や秋の空
眠らざる夜半の灯や秋の雨
電燈を二燭に易へる夜寒かな
竹一本は四五枚に冬近し
菊の花硝子戸越に見ゆる哉
朝貌にまつはられてや芒の穂
棕梠竹や月に背いて影二本
秋となれば竹もかくなり俳諧師
まきを割るかはた祖を割るか秋の空
饅頭に礼拝すれば晴れて秋
饅頭は食つたと雁に言伝よ
瓢箪は鳴るか鳴らぬか秋の風
明けたかと思ふ夜長の月あかり
吾猫も虎にやならん秋の風
酔過ぎて新酒の色や虚子の顔
長からぬ命をなくや秋の蝉
ふつつかに生まれて 芋の親子かな