和歌と俳句

永田耕衣

の鴉啼くこと思へば啼く顔で

行く雲は途中で消ゆる菌の香

野分吾が鼻孔を出でて遊ぶかな

東の人は冷たく穴惑ひ西へ行く

数時間風にあたれる柿の種

墓を去る時に笑ふや墓参り

我が摘みて撫子既に無き堤

夕凪に菩提樹の實の飛行せり

綿が買へず柿の種吐くなり

石の横に俯向いて吐く柿の種

土堤に撫子摘むは天下に我一人

面白うていつに死ぬるや墓参り

無花果四五まんまと熟す四五人に

蹴り伏せて野菊水色なる故郷

萩叢を抱き起したるまま眠る

この墓に消え入る我や墓参り

物寂びたる欲しき墓あり墓参り

野の草のやや亂れ居る魂祭

暮れ方を野菊みづから暮るるなり

秋の蓮花瓣の隙間さへ染めて

菩提樹のカサカサの葉や秋の暮

妻病めば我病む芭蕉裂けるかに

墓一基墓参老人を去らしむ

父の墓の隣の墓参人紅し

墓の意のままに動きて墓参人

一個の無花果や心を海にせん