盆の鴉啼くこと思へば啼く顔で
行く雲は途中で消ゆる菌の香
野分吾が鼻孔を出でて遊ぶかな
東の人は冷たく穴惑ひ西へ行く
数時間風にあたれる柿の種
墓を去る時に笑ふや墓参り
我が摘みて撫子既に無き堤
夕凪に菩提樹の實の飛行せり
綿が買へず柿の種吐くなり
石の横に俯向いて吐く柿の種
土堤に撫子摘むは天下に我一人
面白うていつに死ぬるや墓参り
無花果四五まんまと熟す四五人に
蹴り伏せて野菊水色なる故郷
萩叢を抱き起したるまま眠る
この墓に消え入る我や墓参り
物寂びたる欲しき墓あり墓参り
野の草のやや亂れ居る魂祭
暮れ方を野菊みづから暮るるなり
秋の蓮花瓣の隙間さへ染めて
菩提樹のカサカサの葉や秋の暮
妻病めば我病む芭蕉裂けるかに
墓一基墓参老人を去らしむ
父の墓の隣の墓参人紅し
墓の意のままに動きて墓参人
一個の無花果や心を海にせん