まのあたり瑞穂恋しき涙かな
旅の者過ぎ去り行くや貝割菜
つまさきに見る母が居や秋の風
芦の花幾たりに逢ひ別れけむ
たてよこに流れ合ひけり村の露
朝顔に麦を買ひ足す男かな
ひとの田のしづかに水を落しけり
月明の畝あそばせてありしかな
花芒老母の腰を揉みに行く
行末やつまさきにふむ草の花
我が降ると言へば降り出す秋の雨
朝顔や百たび訪はば母死なむ
秋風やをとめの顔を腹の中
天地に無花果ほどの賑はひあり
夜昼の声のちちろが貌を出す
秋の暮蟻に与ふる物もなく
野分浪通行人が寂しくす
白髪の華のごときに鵙のこゑ
母老いて在り紅白のいなびかり
もう種でなくまつさをに貝割菜
秋水や思ひつむれば吾妻のみ
白菊や対岸は父亡き故郷
その声の場にこほろぎのうつむける
店の柿減らず老母へ買ひたるに