和歌と俳句

原 石鼎

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仲秋のある日来て啼く法師蝉

仲秋や袱紗の上の舞扇

朝顔の濃紫なる野分かな

山霧の乱舞や人にかゝはらず

横むけば靡ける角や月の鹿

明月や縁戸あけたる二ところ

雲霧の乱舞や月にかゝはらず

門の灯をそがひに立ちし無月かな

生籬に添うて道ゆく無月かな

夜の靄にこめしコスモスに人通る

コスモスの乱れふし居り月の下

馬追や月を背ひに倚る柱

秋晴のまぶしさありぬ銀襖

護国寺の縁に憩へば秋の雲

墨染の僧にとび交ふかな

掌をふせては蝗とる子かな

色鳥の来てときめける玻璃戸かな

うらなりの柘榴目に濃き一つかな

熟柿くはへ飛ぶとき鴉羽光り

駅に迎ふみやげの籠の通草かな

ほのぼのと紫したる通草かな

毬栗に朝露のこる軒端かな

風呂敷に落穂満ちたる重さかな

たそがれの庵の框の落穂かな

蓼の穂にかゝれる落穂一穂かな