和歌と俳句

原 石鼎

11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21

天の川かはべにたてば星の海

ひぐらしのやむや浅黄の日の暮れて

初野分はれてしづかに月ひくく

大天明くる夜長も永久の時のうち

月たかだか富士のまそらも夜ながにて

葛の花見て深吉野もしのばゆれ

蚊帳とれば畳にはやし草履虫

いとど一つふとき声して夜なかなる

月の出の雲中天へうろこして

秋彼岸おとなふひとも絶えてなく

富士が嶺に入る日は秋も金色に

かなかなとつれて日くるるせみしぐれ

ひぐらしに黄金いろして夜明雲

秋の夜の大地にひびく貨車なりき

雛紙に老ねもごろや熟柿一つ

深吉野や瀬々に簗まつ下り鮎

道ばたの捨て蚕に赤のまんまかな

大松の枝折れ下り野分あと

夜に入りて妻帰り来ぬ秋深し

桐一葉風がもて擦る土の上

送り火をして連れもなく妻帰る

今日明けて万朶のを見たりけり

立たれざる身に立待の今宵かな

潮ざゐや相模の国の秋の暮

立秋の蜻蛉あまた飛びにけり

盂蘭盆の雨の中とぶ蜻蛉あり

白露や網結きたつる相模灘

臥せし穂にふと瞳を見せし稲雀

伏せし穂に顔と瞳見せし稲雀